9-Jun-2025 培養肉の「味成分」は熟成で増加――分化と熟成がもたらす遊離アミノ酸変化を解明し、味制御へ―― Institute of Industrial Science, The University of Tokyo Peer-Reviewed Publication 東京大学 生産技術研究所 竹内 昌治 特任教授(本務:同大学大学院情報理工学系研究科 教授)と、同大学大学院工学系研究科 古橋 麻衣 大学院生らによる研究グループは、培養筋肉細胞と3次元筋組織の熟成によって、肉の味の鍵となる遊離アミノ酸(FAAs)が顕著に増加することを明らかにしました。 分化によって一度減少したFAAsは、熟成によって再び増加することが確認されました。さらに熟成後の培養肉は市販の牛肉よりも高いFAAs含有量を持つことが示されました。 培地中のFAAs濃度を変化させることで、細胞内FAAsも変化することが確認され、培養条件によって培養肉の味(甘味、うま味、苦味)を制御できる可能性が示されました。 Journal Food Chemistry
6-Jun-2025 ゲートオールアラウンド型 ナノシート酸化物半導体トランジスタを開発――半導体の高集積化・高機能化へ期待―― Institute of Industrial Science, The University of Tokyo Peer-Reviewed Publication 東京大学 生産技術研究所 小林 正治 准教授と、奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 物質創成科学領域 浦岡 行治 教授、髙橋 崇典 助教らによる共同研究グループは、結晶化酸化物半導体の形成技術を開発し、トランジスタの高性能化・高信頼性化を実現しました。 同技術によりゲートオールアラウンド型酸化物半導体トランジスタを開発しました。 半導体の高集積化とそれによる高機能化により、ビッグデータを利活用する社会サービスの展開が期待されます。 Meeting 2025 Symposium on VLSI Technology and Circuits
5-Jun-2025 ウリンは加齢の信頼できるバイオマーカーでないことが、縦断研究より明らかに American Association for the Advancement of Science (AAAS) Peer-Reviewed Publication 動物とヒトの研究から、タウリン濃度の低値が加齢の促進因子である可能性が示唆されたことを受けて、タウリンが加齢のバイオマーカーであるのか否かについて議論となっている。今回、ヒト、サルおよびマウスから得られた縦断データを用いた包括的な研究により、タウリンの血中濃度は年齢とともに一貫して低下するわけではないこと、またタウリン濃度は加齢によるよりも各個人・個体に特異的な因子によってばらつきがあることが示されている。これらの結果から、この研究の著者であるMaria Fernandezらはこう結論づけている。「加齢を遅らせる、あるいは加齢関連症状を幅広く治療する上で、タウリン補充の有効性は諸条件に依存する可能性がある。微量栄養素であるタウリンは、動物に最も豊富に認められるアミノ酸の一つであり、生物学的に幅広い役割を有することおよび健康にとって有益である可能性があることと認識されている。Scienceで発表された研究(June 2023 Research Article)を含め、最近のいくつかの研究では、研究対象とされた動物種においてタウリンの血中濃度が年齢とともに低下すること、またタウリン補充が加齢のプロセスを遅らせ健康な一生を促進する可能性が示されている。これらの結果とその他の結果を受けて、タウリン濃度が加齢を評価するための血中バイオマーカーとなり得るか否かの議論も促されることとなった。 タウリンが加齢における真のバイオマーカーであるとみなすためには、タウリンは多様な集団において年齢に伴って経時的に確実に変化することが、理想的には縦断データによるエビデンスで示される必要がある。Fernandezらによる今回の新たな研究によれば、これまでの研究(そのほとんどは横断データに基づく)では、タウリンの血中濃度が年齢に伴ってどのように変化するのかについての結果は一貫していなかった。これらの以前の研究に基づいて、Fernandezらは幅広い年齢層から成る独立した3つの大規模ヒトコホート、アカゲザルおよびマウスを対象に、タウリン濃度について包括的な縦断・横断解析を行った。その結果、タウリンの血中濃度は、健康な個人・個体では年齢にかかわらず一定であるか年齢とともに上昇すること、またタウリン濃度の変動には年齢そのものよりも食事・性別や種といった個人・個体における差がより大きな影響を及ぼすことが分かった。またこの解析の結果、タウリン濃度と健康の機能的指標、例えば筋力や体重などとの関係は、諸条件と種によってばらつきがあることも明らかになった。これらの結果では、タウリン濃度の低下と加齢との間に因果関係があることについて一貫したエビデンスは得られなかった。これらの結果に基づいてFernandezらは、タウリンは加齢に関する信頼度の高いバイオマーカーではなく、抗加齢(アンチエイジング)療法としての効果は普遍的なものではなく諸条件に依存する可能性があると結論づけた。 Scienceはこの研究について議論するため、米国東部標準時2025年6月3日午前11時にembargo briefingを予定している。このスペースに掲載された研究について実りある議論を行うため、このbriefingには、以前にScienceに掲載され今回の記事でも触れられた研究「タウリン不足は加齢の促進因子(Taurine deficiency as a driver of aging)」(SciPakチームは2023年6月に、この研究について報道解禁に合わせたembargo briefingを開催した。こちらから閲覧可能。)の著者が参加することになっている。 Journal Science
5-Jun-2025 ライダー調査により、米国ミシガン州アッパー半島における植民地時代以前の広範なトウモロコシ栽培が明らかに American Association for the Advancement of Science (AAAS) Peer-Reviewed Publication 新たな考古学調査から得られた知見によって、北米の集約農業は中央集権的な社会または栽培に適した環境でしか行われなかった、という長年の仮定に疑問が呈された。この知見から、米国ミシガン州アッパー半島では植民地時代以前に広範な農業景観が広がっていたことが明らかになり、この地は寒冷な気候で栽培限界であるにもかかわらず、アメリカ先住民のコミュニティは西暦1000年から1600年の間にトウモロコシを集約的に栽培していたことが示唆された。現在米国と呼ばれている土地では、アメリカ先住民コミュニティが次第に集約的なトウモロコシ栽培に依存するようになった。この農業変化は、大きな社会的・環境的変化に伴うものである。しかし、ミシガン州北部のように森林が密集し、気候が寒冷で、生育可能期間が短い栽培限界にある地域の場合、特にワイルドライス(マコモの種子)が豊富に手に入ることを考えると、どのような規模でトウモロコシが栽培され、どの程度農業が集約化されていたかは依然として不明であった。米国東部の多くの地域において、植民地時代以前に集約的農業が行われたという直接証拠が得られるのは極めてまれである。なぜなら、先住民の農地の大部分は、植民地時代の欧州人やアメリカ人による耕作、定住、産業活動によって、不可逆的に変化してしまったからである。しかし、ミシガン州アッパー半島のシックスティ・アイランズ地域にある考古学遺跡には、珍しいことに、植民地時代以前の複雑な盛り土畑とトウモロコシ栽培の証拠が残されている。著者らによると、シックスティ・アイランズの遺跡は、ミシガン州で唯一知られている植民地時代以前の農地遺跡として保存されているが、現在採鉱が提案されており、脅威にさらされているという。 祖先が行っていた農作業の規模と性質について理解を深めるため、Madeleine McLeesterらは、シックスティ・アイランズの遺跡でドローンによるライダー調査と発掘を実施した。その結果、土を盛り上げた畝が300ヘクタール以上にわたり広がる、きわめて保存状態の良い広大なシステムが見つかった。これは米国東部でアメリカ先住民の祖先が農業を行っていたことを示す、最も大規模な既知の例である。放射性炭素年代の測定結果は、畝になった農地が西暦1000年から1600年の間に盛んに利用されていたことを示している。この期間は気温の低い小氷期と重複している。気候は厳しく、労働力は乏しく、主食となる別の食物が自然界にあったにもかかわらず、農民だった祖先はトウモロコシやその他の作物を栽培し、顕著な成功を収めたのである。さらにMcLeesterらは、堆肥にした家庭ごみや栄養豊富な湿地土壌を取り入れて肥沃度を高めるなど、高度な土壌管理が行われていた証拠も見出した。この調査では、農業構造に加えて、埋葬塚、儀式用土構造物、居住場所など、関連する考古学的特徴も数多く明らかになり、農業が広範な文化的景観にすっかり組み込まれていたことが示唆された。集約農業は中央集権的な政治権力と大規模な集団に結びついているという長年の仮定に反して、著者らは、この複雑なシステムが小規模で平等主義的なコミュニティによって作り出されたことを示した。 Journal Science
5-Jun-2025 世界初!早老症ウェルナー症候群患者さんを対象とする臨床試験 ニコチンアミド リボシドが動脈硬化指標、難治性潰瘍、腎機能改善に有効 Chiba University Peer-Reviewed Publication 千葉大学 横手幸太郎学長、同大大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学の前澤善朗講師、正司真弓助教、加藤尚也助教、同大予防医学センターの越坂理也准教授らの研究チームは、希少難病である早老症ウェルナー症候群の患者さんを対象に、ニコチンアミド リボシド(以下、NR)注1)を用いた世界初の二重盲検無作為化クロスオーバープラセボ対照試験を成功させました。その結果、NRは動脈硬化指標および難治性皮膚潰瘍を有意に改善し、腎機能低下の抑制を認めました。 この結果により、NRはウェルナー症候群の動脈硬化、難治性皮膚潰瘍の改善および腎機能障害の予防に有益であると考えられます。 本研究成果は、2025年6月3日に、学術誌Aging Cellで公開されました。 Journal Aging Cell Funder JSPS KAKENHI, the MHLW Research on Rare and Intractable Diseases Program, AMED, NordForsk Foundation
4-Jun-2025 固体表面上の氷の形成を操る“水”の構造の秘密を解明――氷の形成は基板表面付近の水の秩序構造で決まる―― Institute of Industrial Science, The University of Tokyo Peer-Reviewed Publication 東京大学 生産技術研究所 着霜制御サイエンス社会連携研究部門(研究当時) /同大学 先端科学技術研究センター 極小デバイス理工学分野 田中 肇 シニアプログラムアドバイザー(特任研究員)兼同大学名誉教授と同大学 生産技術研究所 着霜制御サイエンス社会連携研究部門 サン ガン特任研究員(研究当時)の研究グループは、氷の核形成が氷と表面の「親和性」よりも、表面近くの水分子の秩序(低次元構造)により決まることを明らかにしました。 分子シミュレーションを用いて、2層の水が順番に秩序化し、氷が成長する “階層的結晶化メカニズム”を解明しました。 本成果は、気候変動予測(雲中の氷形成)や凍結制御材料(防氷コーティング・医療用保存技術など)の開発に貢献することが期待されます。 Journal Journal of Colloid and Interface Science
4-Jun-2025 デジタルサービス利用が暮らしと都市構造を変える Toyohashi University of Technology (TUT) Peer-Reviewed Publication <概要> 豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系 都市・交通システム研究室の研究チームは、デジタルサービスの代替利用による、都市における公平性と持続可能性への影響に関する研究を行いました。本研究では、オンラインショッピングやリモートワークなどのデジタルサービスの利用が、ソーシャルネットワークや人口属性と相互に作用し、住居選択や都市構造にどのように影響を与えているのかを明らかにしています。この研究成果は、国際学術誌「Sustainability」に掲載されました。 Journal Sustainability
3-Jun-2025 インシリコ・メディシン、生成AIアプローチで発見・設計された新規TNIK阻害剤レントセルチブの特発性肺線維症(IPF)に対する第IIa相試験結果をNature Medicineに発表 InSilico Medicine Peer-Reviewed Publication 2025年6月3日、AI駆動の薬物発見における業界初の臨床的概念実証がNature Medicineに掲載されました。インシリコ・メディシンおよび共同研究者は、特発性肺線維症(IPF)向けにインシリコの生成AIプラットフォームPharma.AIを使用して開発されたTNIK阻害剤レントセルチブ(ISM001-055)の第IIa相試験から有望な安全性と有効性結果を報告しました。さらに、この論文でのバイオマーカーの探索的分析は、生成AIアプローチで特定された新規標的TNIK阻害の生物学的メカニズムをさらに検証し、レントセルチブの潜在的な抗線維化および抗炎症効果を裏付けました。 Journal Nature Medicine
2-Jun-2025 イカの皮膚が解き明かす成長の物理学 - 分野を超えた新発見 Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University Peer-Reviewed Publication 物理学は、潮の満ち引きに対する重力の影響を理解したり、顕微鏡のような高度な物理装置を用いて細胞の内部構造を探ったりするなど、自然界のさまざまな現象を解明するのに役立ってきました。ところが近年では、物理学に新たな洞察をもたらすために、生物学的なシステムに注目する研究が増えています。今回、研究者らはイカの皮膚を研究することで、「超乱雑性(hyperdisorder)」と呼ばれる物理現象が生物において初めて確認されることを明らかにし生物の成長が物理現象にどのような影響を及ぼすのかについて新たな理解が得られました。 沖縄科学技術大学院大学(OIST)の学際的研究チームが、イカの皮膚細胞の成長がパターン形成に与える影響を明らかにし、その研究成果が『PRX』誌に掲載されました。実験的なイメージング手法と理論的モデリングを組み合わせることで、これらの細胞の独特な配置について新たな知見を得るとともに、さまざまな成長システムに応用可能な超乱雑性の汎用モデルを構築しました。 Journal Physical Review X Funder Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University
2-Jun-2025 宇宙最大級の超巨大ブラックホールの集団を発見―宇宙の物質分布に新たな謎を投げかける National Institutes of Natural Sciences Peer-Reviewed Publication 大規模な可視光観測のデータを解析することで、11個の超巨大ブラックホールが集中した宇宙最大級の領域が発見されました。これほど密集した超巨大ブラックホールの集団が発見されたのは初めてのことです。すばる望遠鏡を用いた追観測やさらなるデータ解析から、この領域は2つの銀河集団の中間に位置しており、中性ガスと電離ガスの境界であることが明らかになりました。超巨大ブラックホールが、「どこで」、「どのように」成長するかという過程の理解に大いに資する発見です。 Journal The Astrophysical Journal Funder Japan Society for the Promotion of Science, Japan Society for the Promotion of Science, Japan Society for the Promotion of Science, Japan Society for the Promotion of Science, Japan Society for the Promotion of Science International Leading Research (ILR) project