News Releases
Updates every hour. Last Updated: 27-Apr-2025 14:08 ET (27-Apr-2025 18:08 GMT/UTC)
30-Jan-2025
ホッキョクグマのエネルギーモデルにより個体数減少の要因が明らかに
American Association for the Advancement of Science (AAAS)Peer-Reviewed Publication
40年以上に及ぶデータを用いた新しい生体エネルギーモデルの研究結果によると、ハドソン湾西部のホッキョクグマは過去数十年で個体数がほぼ半減しており、これは主に海氷の縮小と狩りの機会の不足によるものだという。この研究結果から、ホッキョクグマの各個体のエネルギー需要と、個体数推移に影響を与える環境上の制約との関係が明らかになり、エネルギーこそが、北極圏の主要な頂点捕食者が減少する中心的な制限要因であることが浮き彫りになった。北極圏は地球上のどの地域よりも急速に温暖化しており、その結果として、海氷が大幅に損失し、生態系が変化し、ホッキョクグマ(Ursus maritimus)をはじめとする氷に依存する種に対して脅威が高まっている。こうした動物は、主要な食料源であるアザラシを狩るために海氷がなくてはならないが、暖かい時期には海氷が融解するため、陸か生産性の低い海域に追いやられ、十分な食料源がないせいで貯蔵エネルギーに依存している。以前から、季節的な海氷変化による食料不足が、ホッキョクグマの個体数減少に関係しているとされてきた。しかし、ほとんどのホッキョクグマの下位個体群に関してデータが不足していることや、海氷損失がホッキョクグマの生涯にわたってどのような影響を及ぼすかを理解するための枠組みが存在しないことから、保護活動は限定的にしか行われていない。海氷の減少とホッキョクグマの個体数との関係を調べるために、Louise Archerらは、カナダのハドソン湾西部にいるホッキョクグマから過去42年間にわたり収集された個体数監視データと捕獲データを集め、個体ベースの生体エネルギーモデルを開発した。生理的原理に基づくこのモデルは、エネルギーの獲得と消費(摂食、体の維持、運動、成長、生殖など)をまとめて、ホッキョクグマの各個体の生活環にまたがる統合エネルギー収支としている。この結果、海氷損失とそれに伴う摂食不足が、1990年代半ば以降に個体数が約50%減少した主な要因だったことが示され、各個体のエネルギー制約が個体群レベルの結果に大きな影響を及ぼすことが実証された。さらに、Archerらは、この枠組みはホッキョクグマ向けに開発したものだが、環境変化や人為的変化のために採餌やエネルギー利用の制約に直面している他の種にも適応可能であり、地球規模の変化の影響に対処したり、保全や政策決定に情報を提供したりするうえで幅広く役立つと述べている。
- Journal
- Science
30-Jan-2025
インドでは社会経済的および政治的安定が野生のトラの個体数回復を支えた
American Association for the Advancement of Science (AAAS)Peer-Reviewed Publication
世界で最も人口の多いインドは、数十年にわたり、最大かつ最も象徴的な肉食動物の1種であるトラの個体数を回復させる取り組みに成功してきた。新しい研究によると、人口の密集したこの国でのトラの個体数回復の鍵となる要因は、保護、餌である獲物、平和、繁栄だという。著者らは、インドの成功はトラの個体数回復に影響を及ぼす社会生態学的要因をより幅広く研究するまたとない機会だと述べている。生態系の健全性を維持するために不可欠な地球最大の肉食動物種は、生息地喪失、獲物減少、人間との対立、違法搾取による影響を受け、絶滅が最も危惧されている。これらの頂点捕食者 ―― 栄養カスケードと生態系の健全性の維持に不可欠 ―― は、特に開発途上地域で個体数が減少しているが、生息環境分断や極度の貧困といった難題があり、保護と個体数回復の取り組みは困難になっている。かつてアジア全域に生息していたトラはその歴史的生息域の90%以上からいなくなり、21世紀初頭には野生の個体は約3,600頭しか残っていなかった。それを受けて、トラの生息する国々は2010年、2022年にはトラの個体数を倍増させるという目標を掲げ、世界トラ回復プログラムを開始した。地球上に密集する人々の一部が住んでいるにもかかわらず、インドはこの目標を達成し、現在では世界の野生のトラの約75%がインドに生息している。Yadvendradev Jhalaらは20年にわたる大がかりな全国規模のトラの監視データを利用して、高度な占有モデルと高分解能空間データセットを使って381,000平方キロメートル(km²)にわたるトラの生息域について分析を行った。その結果、この20年でトラの生息地は年間約3,000 km² ずつ拡大しており、現在の生息域の大部分(45%)はインドの6,000万の人々との共有であることが判明した。保護地域は獲物種が豊富で、避難場所になるという極めて重要な役割を果たしており、そのおかげでトラはその周辺の様々な目的で使用される土地での生息が再び可能になった。しかし、極度の貧困、武力衝突、生息地喪失の影響を受ける地域では、トラがいない局所的な絶滅が続いており、個体数を確実に回復させるには社会経済的および政治的要因が重要であることが浮き彫りになった。「インドでのトラの個体数回復の成功から、トラが生息する国々もその他の地域も、大型肉食動物を保護しつつ生物多様性にも地域社会にも同時にプラスになる重要な教訓を学ぶことができる。それによって、生物多様性に富んだ人新世への期待が再び膨らむ」と、Jhalaらは書いている。
- Journal
- Science
28-Jan-2025
水も汚れも弾きます!構造色塗装技術への一歩〜ロータス効果のある色褪せしない次世代塗装材料に向けて〜
Chiba UniversityPeer-Reviewed Publication
■研究の概要:
千葉大学大学院工学研究院の桑折道済教授と融合理⼯学府博士前期課程2年の前島結衣氏らの研究グループは、武田コロイドテクノ・コンサルティング株式会社の武田真一氏と国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の不動寺浩主席研究員らと共同で、超撥水性を示す構造色塗装が可能な技術を開発しました。疎水化メラニン粒子を含む溶液を刷毛や筆で塗ると、わずか数分で構造色による塗装が可能です。塗装後の表面は超撥水性を示し、水を弾くのみならず自浄作用を示すことから、次世代塗装材料としての応用が期待されます。
本成果は、2024年12月18日に、学術誌Macromolecular Reaction Engineering誌で公開されました。
- Journal
- Macromolecular Reaction Engineering
- Funder
- Japan Society for the Promotion of Science, the National Institute for Materials Science (NIMS)
28-Jan-2025
市民参加と機械学習で地域の持続可能なモビリティを目指す
Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University
地形の起伏が多く、マイカーが主な移動手段となっている沖縄では、利便性が高くて環境に優しい交通手段を提供するのはなかなか簡単なことではありませんが、脱炭素化と地域社会のインクルーシブな移動を実現するためには、持続可能な交通手段の導入が求められています。この度、市民参加型の革新的なアプローチを通じて、沖縄県恩納村・うるま市石川地域において、持続可能で利用しやすい公共交通手段の発見を目指す新しい研究プロジェクト「スマート交通のための主体的ソーシャル基盤(SO-SMART)」が立ち上がりました。
- Funder
- EIG Concert Japan
23-Jan-2025
シギのオスにおける交尾型の違いの根底にある1つの遺伝子
American Association for the Advancement of Science (AAAS)Peer-Reviewed Publication
交尾を行うシギのオスは一般的に3グループのうちの1つに分類され、様々な要素の中でもとりわけ攻撃性や羽衣の華やかさにばらつきがある。今回、新しい研究で、シギのオスの型におけるこれらの劇的な違いはある1つの遺伝子 ―― HSD17B2 ―― が生み出していることが報告された。この研究結果は、1つの遺伝子の構造、配列、調節における進化的変化がどのようにして1つの種に大きな多様性をもたらすかを示している。男性ホルモンのテストステロンはオスの生殖発生に重要な役割を果たしている。このホルモンは体の大きさや装飾といった一連の身体的特徴に影響を及ぼし、また、求愛関連行動などの社会的行動にも影響を及ぼす。テトステロン濃度は個体差が非常に大きく、この差異の一部は遺伝的なものと考えられている。しかし、遺伝的変異体がテストステロン濃度や様々な生殖表現型とどう関連しているかを解明するには更なる研究が必要である。Jasmine Lovelandらはエリマキシギ(Calidris pugnax) ―― 海岸に生息する鳥で、オスの身体的特徴と生殖行動に驚きの多様性があることで知られている ―― のテストステロン生成と代謝について調査を行った。シギのオスには3つの異なる交配型がある。「Independent型」のオスは装飾的な羽衣を誇示し、ディスプレイ領域を果敢に守って交尾を誘う。「Satellite型」のオスは装飾に華やかさはなく、攻撃性も低い。優勢な「Independent型」のそばでディスプレイ行動を行って、機を見て敏に交尾する。これらとは対照的に、「Faeder型」のオスは体の大きさも外見もメスに似ており、他の交尾型のオスのような華やかな羽衣は持っていないため、オスからの攻撃を避けてうまく紛れ込み、こっそりと交尾することができる。「Independent型」は血中テストステロン濃度が高く、アンドロステンジオン ―― 作用の弱い男性ホルモン ―― 濃度は低い。非攻撃的な「Satellite型」と「Faeder型」はその逆である。これまでの研究で、これらの型は約100個の遺伝子を含む超遺伝子と関連していることがわかっている。Lovelandらはその超遺伝子内の遺伝子、HSD17B2に着目し、この遺伝子の進化的変化が低テストステロン濃度型のシギにおける高活性酵素の生成増加につながることを発見した。これらの酵素はテストステロンを速やかにアンドロステンジオンに変え、血中テストステロン濃度を下げる。HSD17B2の活動の組織特異性のおかげで、これらの型のシギは、睾丸内の生殖のためのテストステロン濃度は高く維持しながら、その他の部位での作用を制限して、独自の交尾行動と特徴を支援することができる。関係するPerspectiveではKimberly Rosvallが次のように書いている。「Lovelandらの研究結果は、ホルモンが媒介する特徴、若しくはおそらく全ての複雑な特徴にとって新たな「生命のルール」になりうるものを提示している。進化において、問題にはそれぞれ多数の可能な解決策があるものだ。」
- Journal
- Science
23-Jan-2025
進化を研究する新しい手法「CASTER」の提案
American Association for the Advancement of Science (AAAS)Peer-Reviewed Publication
全ゲノムデータを用いた新しい研究において、「CASTER」が提案された。CASTERとは、部位パターンと呼ばれるDNA配列の並びを利用して、種間の進化的関係を示す図「種系統樹」を推定するツールである。卓越した精度と拡張性を備え、従来の系統学的手法の限界を克服したこのツールは、進化研究を変革する可能性を秘めている。ゲノムデータの利用可能性が高まっていることから、正確な種系統樹を描き、遺伝子系統樹の変化をモデル化する取り組みが再び活発になっている。しかし、ゲノム規模のデータを利用する手法は、データの利用可能性に後れを取っている。従来の手法は不完全遺伝子系統仕分け(ILS)に苦戦しており、2段階アプローチは計算上の課題に直面している一方で、部位に基づく新たな手法はILSに対処できるものの、拡張性と精度の問題がネックになっている。これを受けてChao Zhangらは、全ゲノムアラインメントから種系統樹を直接推定する新しい手法、CASTER(Coalescence-aware Alignment-based Species Tree Estimator)を開発した。Zhangらは、これまでに研究されたゲノムデータセット(鳥類と哺乳類を含む)に対して広範なシミュレーションおよび分析を行うことにより、組み換えが起こった何百ものゲノムを正確な系統学的推定に基づいて解析する際に、CASTERは概して他の最先端の手法よりも迅速かつ正確であることを実証した。しかし著者らは、CASTERは有望ではあるが、枝長がないことや特定の進化モデルの仮定に依存していることなど、限界があると述べている。今後の開発では、こうした理論的および現実的な課題に対処し、このツールの適用範囲をより広範なデータ型やより複雑な生物学的シナリオに拡大することを目指すという。
研究公正の問題に関心がある記者に向けて、著者のSiavash Mir Arabbaygiは次のように述べている。「我々の研究分野は、実際に使用される(ほぼ)すべてのツール(本論文で紹介する手法と、我々の研究室で導入したその他のすべての手法を含む)をオープンソースにすることで、大きな進歩を遂げてきた。しかも、この分野の一流学術誌は、Dryad、Zenodo、FigShareなどのリポジトリでデータを公開するよう著者に促すという、立派な取り組みをしている。著者らがさまざまな詳細度でデータを提供しているのは、一つには大規模なデータセットをエクスポートするのにこうした工夫が必要なためであり、また一つには公開リポジトリには提供データのサイズに関していくつかの制限があるためである。他の分野とは異なり、系統学研究はデータ共有に関して非常にオープンで寛大である。」
- Journal
- Science
22-Jan-2025
身体を持つ新しいAI、ロボットと幼児がどのように理解することを学ぶのかを解明
Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate UniversityPeer-Reviewed Publication
私たちの社会に革命をもたらす大規模言語モデル(LLM)へと進化することになった初期のニューラルネットワークは、もともと、脳がどのように情報を処理するかを研究する目的で開発されました。皮肉なことに、これらのモデルが洗練されるにつれ、内部の情報処理経路は不透明になっており、現在では何兆もの調整可能なパラメータを持つモデルも登場しています。
しかし、このほど、沖縄科学技術大学院大学(OIST)認知脳ロボティクス研究ユニットの研究チームが、ニューラルネットワークのさまざまな内部状態にアクセスできる新しいアーキテクチャを備えた身体性知能モデルを開発しました。このモデルは、子どもが一般化する方法を学ぶのと同じ方法で学習しているように見えます。
- Journal
- Science Robotics
- Funder
- Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University, Japan Society for the Promotion of Science
20-Jan-2025
OIST研究ユニット紹介-「脳のダウンロード」を試みるデータサイエンティスト
Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University
データから相関関係を探すのは生物学者の日常業務です。相関関係は因果関係を意味するわけではありませんが、それがさらなる実験の出発点となる可能性があります。あるシステムにおいて、ある因子を操作することで反応が変化した場合、科学者はそこに因果関係があると考えます。ただ、このよく検証されているアプローチは、システムが複雑になると、問題を生じ始めます。
17-Jan-2025
【ポッドキャスト】 芸術を通して科学体験の方法を変える―アーティスト、スプツニ子!さんが登場!
Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University
スプツニ子!(Sputniko!)さんは、芸術とテクノロジーを融合させて、社会問題を探求している日本と英国のアーティストです。彼女の作品は、科学的な概念と新しい技術を融合させることで、私たちの視点に疑問を投げかけ、重要な社会問題や環境問題を浮き彫りにしています。
この度、OISTのサイエンスライター マール・ナイドゥ―が、OISTポッドキャストでスプツニ子!さんにインタビューしました。
スプツニ子!さんは、科学者とのコラボレーションも頻繁に行っており、遺伝子組み換え技術と文化的な神話を組み合わせた蚕を用いた「Red Silk of Fate」プロジェクトはその一例です。「運命の赤い糸で結ばれた二人」というアジアの神話から着想を得たスプツニ子!さんは、農研機構(NARO)の研究領域長で東京大学教授の瀬筒秀樹氏と共同で、「愛情ホルモン」として知られるオキシトシンを含む遺伝子組み換えした赤い蚕を作り出しました。
今回のポッドキャストでは、スプツニ子!さんが自身の芸術活動のきっかけと課題について語り、科学とテクノロジーが作品の中心的なテーマとなっていることを説明しています。また、11月29日から1月9日までOISTトンネルギャラリーで開催された展覧会「コーラルカラーズ」のインスピレーションについても語ってくれました。