News Release

温度感覚はどのようにして保たれているのか

ショウジョウバエの神経で働く脂質の未知の機能を発見

Peer-Reviewed Publication

National Institutes of Natural Sciences

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bishu-1 synthesizes diacylglycerol and maintains the expression of the transcription factor broad. broad binds to the regulatory region of cool receptors IR25a and IR21a to maintain their expression. In wild-type larvae, this mechanism preserves cold avoidance behavior. Disruption of bishu-1 leads to reduced responsiveness of cooling-sensitive neurons (DOCCs) through decreased expression of broad and IRs, causing larva to remain at cool temperatures. Based on this mutant phenotype, we named the gene bishu, which is a Chinese word for “summering”.

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Credit: Takaaki Sokabe

温度感覚はあらゆる生物にとって、生育に適した温度を探す上で欠かせない機能です。これまでに様々な動物において数多くの温度センサーが報告されており、2021年のノーベル賞生理学・医学賞は温度センサーTRPチャネルが対象となりました。感覚神経などに存在する温度センサーが適切に機能し続けることで、私たちは暑さ・寒さを避けることができますが、これらのセンサーはタンパク質でできているため、適宜代謝されてしまいます。これらのセンサーが神経において、どのようにして次々と発現し、その機能が維持されているのかは、非常に重要な問題ですが、不明な部分も多いのが現状です。

 

 研究グループは、これまで感覚機能の研究ではあまり注目されてこなかった脂質に着目。脂質の合成や分解に関わる様々な遺伝子について解析しました。通常、ショウジョウバエ(以下ハエ)の幼虫を温度勾配のあるプレート上で自由に行動させると、好きな温度(24℃)に集まってきます。一方でジアシルグリセロールという脂質を合成する遺伝子が働かなくなった変異体の幼虫を使って同じ実験を行ったところ、涼しい温度(~21℃)に集まることが分かりました。その行動が、あたかも暑さを避けているように見えたことから、その遺伝子に「避暑」の中国語読みであるbishu(ビシュウ)という名前を付けました。

 

さらに研究グループは、bishu遺伝子が欠損した感覚神経では、2つの低温センサーIR25aとIR21aの発現量が正常な神経の半分しかなく、低温に応答しにくくなっていることを明らかにしました。これらの結果は、低温センサーIR25aとIR21aが発現するために、 bishu遺伝子が重要な働きをしていることを示しています。さらに、低温センサーの発現を調節する転写因子としてbroadを発見し、その発現量も半分に減少していることを明らかにしました。これらの結果より、bishu遺伝子によるジアシルグリセロール合成経路がbroadを介して低温センサーの発現を維持していることが明らかになりました。

 

 曽我部准教授は「今回の研究で、温度センサーの発現が脂質合成経路によって維持されていることがわかりました。遺伝子の発現調節に脂質が関わっていることはこれまで知られていない予想外の結果であり、人で温度感覚を正常に保つために、脂質を使った新しい医療技術の開発が期待できるかもしれません。」と話しています。

 

本研究により、温度感覚に必要なセンサーの発現を保つための全く新しいメカニズムが明らかになりました。この脂質を介した発現調節メカニズムは様々な神経にも存在すると考えられ、温度だけでなく、幅広いセンサーの維持に働いている可能性があります。将来的に、感覚機能障害の改善や予防に役立つことが期待されます。


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