News Release

ヒトノロウイルスも「姿」を切り替えていた? ― クライオ電子顕微鏡が捉えた感染を左右する構造変化 ―

Cryo-EM captures structural changes that may influence viral infection

Peer-Reviewed Publication

National Institutes of Natural Sciences

図1. ヒトノロウイルスVLPの2種類の構造

image: ヒトノロウイルスは直径約40 nmの正二十面体ウイルスで、VLPは殻のSドメインとそこから伸びる突起のPドメインからなる。resting状態ではPドメインが約1 nm持ち上がる(赤の矢印)。色スケールは粒子の半径を示す。 view more 

Credit: Kazuyoshi Murata

【研究の背景】

ヒトノロウイルスは世界で年間約6~7億人が感染すると推定される急性胃腸炎の主要な原因ウイルスですが、現在でも有効な抗ウイルス薬は存在していません。感染の仕組みを理解するためには、ウイルス粒子の立体構造を詳細に知ることが不可欠です。しかし、ヒトノロウイルスは実験容器の中で培養細胞に感染させて大量に収集することができないため、研究が進んでいませんでした。

一方、実験容器の中で大量に収集できるマウスノロウイルスでは、環境条件によってカプシド構造が変化することが報告されていましたが、ヒトノロウイルスでも同様の現象が起こるかどうかは分かっていませんでした。

 

【研究の成果】

 研究グループは、これまでに地域内で深刻な大流行を度々引き起こしているヒトノロウイルスGII.3株のウイルス様粒子(VLP)の作製に成功し、最新のクライオ電子顕微鏡を用いてその構造解析を実施しました。すると、一つの試料中に、Pドメインの位置が異なる2種類のVLP(resting状態とrising状態)が共存していることを発見しました(図1)。

解析の結果、(1)resting状態では、PドメインはSドメインの近くに位置し、さらに先端のP2領域を介した広範な結合ネットワークを形成していました。一方、(2)rising状態では、Pドメインが約1 nm持ち上がり約55度回転するとともに、結合ネットワークがP1領域へと切り替わっていました(図2)。さらに、rising状態ではPドメインがより柔軟な構造をとることも明らかになりました。

【成果の意義と今後の展開】

 本研究は、「ヒトノロウイルスのカプシドもマウスノロウイルスと同様に、固定された殻ではなく、状況に応じて構造を変化させる動的な分子機械である」ことが初めて示唆されました。Pドメインには宿主細胞への結合部位や抗体が認識する領域が集中しています。そのため、この構造変化は、細胞への感染効率、宿主受容体との結合、抗体から逃れる免疫回避、などに深く関与している可能性があります。今後は、どのような環境変化(pH、金属イオン、体内の酸など)がこの構造変化を引き起こすのか、感染性ウイルスでも同じ現象が起こるのか、この構造変化を阻害する抗体や低分子化合物を開発できるか、を明らかにすることで、新しい抗ノロウイルス治療法や次世代ワクチンの開発につながることが期待されます。


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