image: Adding organic solvents to the crystallization solution allowed the chiral inorganic compound cesium copper chloride (CsCuCl₃) to form single-handed (enantiopure) crystals. Among the water-miscible organic solvents tested, ethylene glycol and 1-pentanol were particularly effective, leading to the formation of left- and right-handed crystals. When achiral crystal Cs₃Cu₃Cl₈(OH) was used as a seed, homochiral CsCuCl₃ crystals grew on its surface, demonstrating that chiral crystals can be produced even with an achiral template.
Credit: Inomata et al.
[背景]
キラリティー*1は右手と左手のようにあるものの鏡像が重ね合わせられない関係を指します。有機分子においてキラリティーは広く知られた概念ですが、無機結晶においてもキラルな関係にある物質が存在します。三塩化銅セ シウム(CsCuCl3)*2は右手型・左手型の結晶が存在するキラルな無機結晶として知られ、その構造に由来したキラル機能物性が期待されています。一方、結晶化の際に右手型・左手型のドメインが混在し、ラセミ双晶*3を形成してしまうことが課題です。
[研究の内容]
天然に産出する鉱物である水晶 (SiO2) もキラルな無機結晶ですが、産出地によって異なる形態や双晶構造をもちます。これは、結晶化温度や不純物の存在といった結晶成長条件が異なることに由来すると考えられますが、逆に言えば結晶成長条件によって無機結晶のキラリティーを制御できることを示しています。これまで結晶化温度が三塩化銅セシウムの光学分割*4に重要であることを明らかにしてきましたが (Cryst. Growth Des., 25, 7081–7084, 2025. https://doi.org/10.1021/acs.cgd.5c00561)、本研究では結晶化の際にアルコール類などの有機溶媒を添加することで右手型・左手型の三塩化銅セシウムにそれぞれ結晶化し光学分割できることがわかりました。
[成果]
三塩化銅セシウムは水溶性の化合物であるため、水溶液からの溶媒蒸発法によって結晶化しました (結晶化温度: 35oC)。水のみでは右手・左手のドメインが混在したラセミ双晶が得られましたが、有機溶媒を添加すると、右手・左手の結晶にそれぞれ分かれて結晶化することがわかりました 。また、有機溶媒の中でもアルコール類が光学分割に有効であ り1-ペンタノールおよびエチレングリコールが大きな効果を示しました。結晶の形態を比較したところ、アルコール添加によって結晶のc軸成長が抑制されており、成長面が異なっていました。この結晶成長過程の違いがラセミ双晶を形成するか単一のキラリティーを持つ結晶ができるかに関わると考えられます。また、添加する有機溶媒の量を多くするとアキラル*5相であるCs3Cu3Cl8(OH)が生成しました。これを種結晶として結晶化をおこなったところ、Cs3Cu3Cl8(OH) の結晶上にキラルな三塩化銅セシウムが析出しました。この結果は、キラル結晶の生成に必ずしもキラル相が必要ではないということを示しています。
[展開]
本研究によって、キラルな無機結晶を得るための方法論の一つを見出すことができました。今回の研究対象である三塩化銅セシウム以外のキラル無機結晶の光学分割にも本手法を適用できる可能性があります。キラルな無機結晶を自在に得る手法として期待されます。
[用語解説]
*1 キラリティー: 右手と左手のように、ある物体とその鏡像が重ね合わせられない(キラルな)関係を指す。アミノ酸は代表的なキラル分子である。
*2 三塩化銅セシウム: セシウム、銅、塩化物イオンからなるイオン結晶。結晶構造中にらせん軸をもち、水晶と同様に右手・左手型の結晶が存在する。
*3 ラセミ双晶: 右手・左手型の結晶構造 (ドメイン) が共存して混ざり合った状態の結晶
*4 光学分割: 純粋な右手・左手系の物質にそれぞれ分ける操作。1848 年にルイ・パスツールが発見した酒石酸ナトリウムアンモニウムの光学分割が有名な例。
*5 アキラル: キラルではないこと。キラル化合物とは逆に、その鏡像が重なりあう。
Journal
Crystal Growth & Design
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Solvent and Achiral Crystalline Phase-Induced Chiral Resolution of CsCuCl3
Article Publication Date
24-Dec-2025
COI Statement
The authors declare no conflicts of interest