image: Single crystals of potassium europium nitrate, K₃[Eu₂(NO₃)₉], grown from water by slow evaporation (a). Single-crystal X-ray diffraction reveals left- and right-handed chiral crystal structures (c, d). Under ultraviolet light, the crystals emit bright red circularly polarized luminescence (b), demonstrating that a purely inorganic bulk crystal can exhibit chirality-induced optical activity. This study opens new possibilities for the design of robust optical materials.
Credit: Inomata et al.
[背景]
左・右の円偏光に偏りが生じる円偏光発光 (CPL)*1は、紙幣や金券に代表されるセキュリティープリントや 3Dディスプレイなどへの応用が期待されています。これまで円偏光発光を示す材料としてキラリティー*2 をもつ有機分子、超分子などが広く研究されていています。一方、近年キラルなナノ結晶やキラルな形態をもつ無機材料など無機化合物をベースとしたCPL材料が注目されていますが、有機材料と比較してその例は多くありません。
キラリティーは分子構造や形態だけでなく、結晶構造においても発現します。カリウムとランタノイドからなる硝酸塩 K3[Ln2(NO3)9] (Ln: ランタノイドイオン) は右手型・左手型の結晶構造をもつキラルな無機結晶の一つで、様々なランタノイドイオンを制御できる結晶です。このような非対称場を有するこ の結晶に発光性イオンを導入することで、キラル光学特性を得られることが 期待されています。
[研究の内容]
ユウロピウムイオン (Eu3+) はランタノイドイオンの一つで赤色発光を示すイオンとして知られています。これまでK3[Ln2(NO3)9]にランタン、セリウ ム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムイオンを導入した例は知られてい ますが、ユウロピウムイオンからなる結晶は報告されていませんでした。
そこで発光性イオンであるユウロピウムイオンをキラルなフレームワークをも つ K3[Ln2(NO3)9]に導入することで無機結晶からの円偏光発光が得られるのではないかと着想しました。本研究ではK3[Eu2(NO3)9]の単結晶が得られ、この結晶が赤色のCPLを示すことを確認し、無機バルク結晶でもCPLを示すことを発見しました。
[成果]
K3[Eu2(NO3)9]の単結晶は硝酸カリウムと硝酸ユウロピウムを含む 水溶液 から、溶媒蒸発法によって得られました。結晶のサイズは最大で約8 mmであ り大きな単結晶を得ることができました。また、K3[Eu2(NO3)9]は自然 分晶*3し、左手型・右手型の結晶に自発的に分かれて結晶化することがわかりました。この結晶は偏光顕微鏡測定によって旋光性を直接確認でき、観察される色の違いから左手型・右手型の結晶を容易に識別できました。
単結晶X線構造解析の結果、K3[Eu2(NO3)9]は鏡像関係にあるキラルな結晶構 造をもつことがわかりました 。ユウロピウムイオンは酸素イオンと歪んだ20面体構造を形成し、中心対称性を欠く非対称な配位環境中に存在していました。さらに本化合物の単結晶はUVランプ照射下で赤色発光を示しました。光学特性を詳しく調査したところ 、K3[Eu2(NO3)9]はユウロピウムイオンの f-f遷 移に由来したCPLスペクトルを示すことが確認されました。CPLの評価指標である|glum|は0.023―0.026と比較的大きな値を示し、蛍光量子収率は96%と非常に高い値を示しました。
[展開]
本研究により、無機結晶においても結晶構造中のイオン配列を制御するこ とでCPLを誘起可能であることが明らかとなりました。今後は、無機結晶で CPL材料を実現するための設計指針を明らかにしていく予定です。無機結晶の対称性を制御することにより、有機化合物に限らず完全な無機物からなる新しいCPL材料の創出が期待されます。
[用語解説]
*1 円偏光発光 (CPL): 光が進行方向に対して、左巻きまたは右巻きのらせんを描くように振動しながら放射される特殊な発光。
*2 キラリティー: 右手と左手のように、ある物体とその鏡像が互いに重ね合 わせることができない関係を指す性質。アミノ酸は代表的なキラル分子であ る。
*3 自然分晶: 結晶化の過程で、右手型結晶と左手型結晶に分かれて生成する現象。1848 年にルイ・パスツールにより、酒石酸ナトリウムアンモニウムに おける自然分晶が発見された。
Journal
Journal of the American Chemical Society
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Circularly Polarized Luminescence in Chiral Potassium Europium Nitrate
Article Publication Date
31-Dec-2025
COI Statement
The authors declare no conflicts of interest