News Release

金属-金属結合をもつコバルト三核分子で 「スピン量子ビット」特性を発見

~量子コンピュータ材料開発に新しい指針~

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

image: 

Core structure of [Co₃(dpa)₄Cl₂] with the schematic illustration of spin qubit

view more 

Credit: Sekine et al.

(ポイント)

  • コバルトイオン3 個が直線的に結合した分子で、スピン量子ビットとして機能することを初めて実証しました。
  • 金属-金属結合をもつ分子でスピン緩和時間(T₁、T₂)を精密に測定し、 長寿命スピン状態を確認しました。
  • 今後、量子情報処理や高性能量子メモリなどへの応用が期待されます。

(概要説明)

熊本大学大学院先端科学研究部の速水真也教授らの研究 グループは、韓国 ・ 台湾の共同研究者とともに、コバルトイオンが金属-金属結合によりつながった錯体 分子「Co₃(dpa)₄Cl₂( dpa=2,2′-ジピリジルアミド)」が、量子ビット(スピン量子ビット)※ 1として機能することを世界で初めて明らかにしました。 本研究では、パルス電子スピン共鳴(EPR)法※ 2を用いてスピンの緩和特性 を詳 細に解析し、金属-金属結合 をもつ分子でも比較的長いスピン寿命を保持できることを実験的に証明しました。この成果は、分子を基盤とした量子コンピュータ材料設計の新しい方向性を示すものであり、将来的には量子情報処理技術やスピンエレクトロニクスの発展に貢献することが期待されます。

本研究成果は、英国王立化学会 (Royal Society of Chemistry)の国際学術誌 Chemical Communications に掲載され、雑誌の「Outside Front Cover」にも選出されました。なお、本研究は文部科学省科学研究費補助金 、韓国研究財団 (NRF)助 成金 、韓国基礎科学研究院 ( KBSI) 、韓国科学技術情報研究院 ( KISTI)国立スーパーコンピューティングセンターの支援を受けました。

(説明)

[背景]
量子コンピュータの開発では、情報を担う「量子ビット(qubit)」の安定 性と制御性が鍵となります。特に、電子スピンを利用する「スピン量子ビッ ト」は、長寿命で精密制御が可能なため注目されていますが、分子レベルで の安定的なスピン量子ビット設計はこれまで困難でした。一方で、分子量子ビットは、設計性や制御性の観点から有利であり、優れた物質探索が行われてきていました。

[研究の内容]
研究グループは、金属-金属結合を有する剛直な三核コバルト錯体 Co₃(dpa)₄Cl₂ に着目しました。この分子はスピン状態が切り替わる「ス ピンクロスオーバー(SCO)」※ 3挙動を示すことが知られていましたが、量子ビットとしての特性は未解明でした。 今回、磁化測定とパルス電子スピン共鳴(EPR)実験により、低温でのスピン–格子緩和時間(T₁)※ 4とスピン–スピン緩和時間(T₂)※ 5を精密に解析し ました。その結果、金属-金属結合が存在しても、ミリ秒オーダーの T₁およびマイクロ秒オーダーのT₂を示すことが分かりました。これは量子情報処理に適した長寿命なスピン緩和状態の保持を意味します。

[成果]
Co₃(dpa)₄Cl₂は、これまでに報告のない「金属-金属結合をもつスピン量子 ビット分子」であり、その電子スピンは3つのコバルト原子にまたがって分布 していることが明らかになりました。この分子では、スピンの緩和がフォノン(格子振動)との相互作用によって制御されることが分かり、量子ビットの安定化設計に新しい知見を提供します。

[展開]
今回の成果は、金属-金属結合をもつ多核金属錯体を量子ビット材料として利用できる可能性を示した初の例であり、今後は他の金属イオンを用いた 新しいスピンクロスオーバー量子ビット材料の開発につながると期待されます。

[用語解説]
※1 スピン量子ビット(Spin Qubit):電子のスピン(上向き・下向き)を 0 と 1 に対応させ、0 と 1 の重ね合わせ状態により量子情報を保持する単位。

※2 パルス電子スピン共鳴(EPR)法:磁場中の電子スピンの状態を観測する分光法で、スピンの緩和時間や量子ビット特性の評価に利用される。

※3 スピンクロスオーバー(SCO):温度や光などにより分子のスピン状態 (高スピン・低スピン)が可逆的に変化する現象。

※4 スピン–格子緩和時間(T₁):スピンと格子振動が相互作用の影響を受けながら、磁化された z 軸方向性成分が熱平衡状態に緩和するまでの時間。

※5 スピン–スピン緩和時間(T2):スピン同士が相互作用の影響を受けながら、磁化された xy 平面成分が熱平衡状態に緩和するまでの時間。

※6 ラビ振動挙動:電磁波に共鳴した原子が 2 つのエネルギー状態(本研究では上向きと下向きのスピン)間を繰り返し遷移する挙動。


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.