image: (上)離れた領域を同時につなぐ「つなぎ役」の乱流は、選手たちが声を掛け合って素早くパスを回す動作に相当し、プラズマ内部で遠隔の領域を瞬時に結びつけて熱の広がりを加速させている。 (下)熱を実際に外側へ運ぶ「運搬役」の乱流は、ボール(熱)を抱えて前へ走るアメフト選手のように、時間をかけて広がりながらプラズマの温度分布を形づくる。 view more
Credit: 核融合科学研究所
研究背景
核融合発電を実現するためには、1億度以上のプラズマを磁場で安定に閉じ込めて長時間維持することが必要です。しかしプラズマの中では常に小さな揺らぎである「乱流」が生じており、それが熱を外へ運び出してしまうことで閉じ込めを弱めてしまいます。そのため、乱流と熱がどのように広がっていくかを理解し、それを予測・制御することが求められます。
従来の理論研究では、熱と乱流は「中心」から「周辺」へと順に伝わる、いわば“にじむような伝わり方”をすると考えられてきました。ところが実験では、熱と乱流が一気に伝わることがあり、まるでアメフトの試合で選手たちがボール(熱)をテンポよくパスでつないでいくように、ひとつの変化が全体へ瞬時に伝わることが観測されていました。このような“遠くまで同時に伝わる仕組み”の正体を明らかにすることが、本研究の出発点です。
研究成果
核融合科学研究所の釼持尚輝准教授、居田克巳特任教授、徳澤季彦教授らの研究グループは、研究所の大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマの中心部を短い時間だけ熱する実験を行い、そこから熱と乱流がどのように伝わっていくかを様々な波長の電磁波を用いた高精度計測器※4により詳細に調査しました。
その結果、熱が広がるときには、熱の流れと乱流の広がりが密接に関係していることがわかりました。加熱直後、まずプラズマ全体を同時に結びつけるような乱流が立ち上がり、遠く離れた領域まで10000分の1秒以下の非常に短い時間で影響が及ぶことが確認されました。この「つなぎ役」の乱流は、まるでアメフトの選手が声を掛け合ってボールを素早くパスしながら仲間に中継していくように、離れた場所どうしを結び、プラズマの中で遠隔の領域を瞬時に結びつけていると考えられます(図1)。その後、熱を実際に運ぶ「運搬役」の乱流が、ボールをしっかり抱えて前線へ運ぶ選手のように、時間をかけて広がりプラズマ全体の温度を形成していきます。
さらに、加熱の時間を短くするほど、この「つなぎ役」の乱流が強くなり、熱がより速く広がることも明らかになりました。このように、プラズマ内部では乱流が「運搬役」と「つなぎ役」という2つの役割を持ち、部分的な変化が全体へ瞬時に広がる仕組みを形づくっていることが明らかになりました。
研究成果の意義と今後の展開
今回の成果は、プラズマ全体を同時に結びつける「つなぎ役」の乱流の特性を高い時間・空間分解能で詳細に示した世界初の研究であり、さらに乱流が「熱の運搬役」と「熱のつなぎ役」の「一人二役」を担うことを実験的に明確化した世界初の成果です。
これにより、中心へ加えられた熱が周辺に広がるメカニズムが明らかになり、将来の核融合炉で起こる広域の熱伝播を予測・制御するための重要な基盤となります。
今後は、この「つなぎ役」の働きを意図的に制御し、熱がゆっくり伝わるプラズマの生成手法の開発を進めます。また、この「遠く離れた場所が同時に反応する」性質は、海や大気の循環、地球環境変動、材料内部のエネルギー伝達など、他分野にも共通する普遍的なメカニズムとして応用が期待されます。
【用語解説】
※1 乱流
プラズマの密度や温度に不均一性がある場合、それが駆動力となってプラズマ中の波が成長し、やがて流れや渦が作り出され、高温状態ではしばしばそれらが不規則に乱れた状態となる。この状態を乱流と呼ぶ。
※2 大型ヘリカル装置(LHD)
核融合科学研究所の実験装置で、超伝導コイルを用いた世界最大級のヘリカル装置。我が国独自のアイデアに基づくヘリオトロン配位と呼ばれる磁場配位を採用し、二重らせん状のコイルを用いてねじれた磁場構造を形成する。1998年から実験を開始し、2017年には核融合炉で必要とされるイオン温度1億2千万度のプラズマの生成に成功した。安定したプラズマを長時間維持することができる特長を持ち、豊富で高性能な各種計測機器が敷設されており、高度な物理実験が可能である。LHDはLarge Helical Device の略。
※3 つなぎ役(メディエータ)
プラズマの中で、離れた場所どうしを同時につなぎ、熱やエネルギーの伝わりを速めるはたらきをもつもの。その様子は、アメフトの選手が仲間にボールを素早くパスしながら前線へ進めるようなもので、熱をボールに見立てると、メディエータはその中継役としてプラズマ全体の動きをつなぐ存在。
※4 高精度計測器
熱と乱流の関係を調べるためには、それらがどれくらいの速さでプラズマ中を移動していくかを計測する高度な機器が必要である。LHDでは、プラズマの乱流と電子の温度と熱の流れを、様々な波長の電磁波を用いて計測する機器を開発してきた。これらは世界最高レベルの性能で、ミリメートルサイズの細かな乱流が変化する様子をマイクロ秒の間隔で計測できる。研究グループは、これらの計測機器を駆使して、2022年に高速に移動する乱流を発見し(以下参照)、今回、その成果を発展させて乱流の役割を明確にした。
Journal
Communications Physics
Method of Research
Experimental study
Article Title
Direct observation of coexisting local and nonlocal turbulence in a magnetically confined plasma
Article Publication Date
10-Dec-2025