News Release

視線の動きと脳活動の関係を明らかに

スムーズパーシュートとサッカードの比較

Peer-Reviewed Publication

National Institutes of Natural Sciences

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When compared with fixation, both smooth pursuit (upper left) and saccadic (lower left) eye movements showed similar patterns of brain activation (red) and deactivation (blue). In contrast, a direct comparison between the two (right panels) revealed distinct regions more strongly associated with smooth pursuit (red) and with saccades (blue). Abbreviations: FEF, frontal eye field; hMT+, human middle temporal complex; IPS, intraparietal sulcus; PEF, premotor eye field; pCingS, posterior cingulate sulcus; SEF, supplementary eye field; SPL, superior parietal lobule.

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Credit: Tetsuya Yamamoto

スムーズパーシュート(滑動性追跡眼球運動)とサッカード(跳躍性眼球運動)は、どちらも眼球運動ですが、役割や制御の仕組みは大きく異なります。例えば、目を閉じたまま動かそうとすると、サッカードはできますが、スムーズパーシュートは難しいはずです。また、統合失調症の患者さんでは、スムーズパーシュートに障害が出ることが知られており、両者が異なる神経ネットワークに依存していると考えられてきました。しかし、これまでの研究は、主に一方の眼球運動だけを対象にすることが多く、両者を直接比較する研究は限られていました。


本研究では、機能的MRIを用い、跳躍的か滑動的かという眼球運動の形式以外の条件を揃え、それぞれの眼球運動に関わる脳活動を直接比較しました。さらに、アメリカの国際プロジェクトHuman Connectome Project(HCP)で開発された最新の解析ツール「HCPパイプライン」の導入により、これまでにない精度で脳全体の活動を可視化しました。
その結果、どちらの眼球運動でも、視線を固定しているときに比べて、後頭葉の低次・高次視覚野の多くの領域を始め、頭頂葉の頭頂間溝に沿った領域、前頭葉の複数の眼球運動関連領域、小脳、皮質下領域など、広い範囲で共通して活動が高まることが分かりました。また、眼球運動中に活動が低下する領域にも共通性が見られました。一方で、2種類の眼球運動の活動の詳細な比較により、違いも明らかになりました。スムーズパーシュートでは、低次・高次視覚野や後帯状溝、上頭頂小葉でより強い活動が見られました。対照的に、サッカードでは、前頭葉の眼球運動関連領域や頭頂葉の頭頂間溝に沿った領域の活動が強いことが分かりました。つまり、両眼球運動は共通の神経基盤を持ちながら、それぞれに特徴的な神経ネットワークを動員しているのです。


今回の成果は、眼球運動に関わる神経ネットワークの理解を深めるだけでなく、統合失調症などの精神・神経疾患の病態解明や早期発見・診断につながる可能性があります。また、病気とは関係なく、スムーズパーシュートが生得的に苦手な人が一定数いることが知られており、こうした特性が球技スポーツの得意・不得意に関わっている可能性も考えられます。もしそうであれば、将来的にスポーツ科学への応用も期待できます。
外界の情報を取り込む眼球運動を手がかりに、人の心や脳の働きに迫る──その点に今回の研究の面白さがあります。
 


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