News Release

化学の常識を覆す新有機金属化合物を発見

これまで不可能と考えられてきた新しい配位化学によって、触媒や材料科学に画期的な可能性を拓きます。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

image: 

Molecular structure of the new 20-electron ferrocene derivative, highlighting nitrogen (blue), iron (orange), hydrogen (green), and carbon (grey) atoms.

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Credit: Modified from Figure 2c in Takebayashi, S., Ariai, J., Kartashov, S.V. et al. From 18- to 20-electron ferrocene derivatives via ligand coordination. Nature Communications (2025). https://doi.org/10.1038/s41467-025-61343-7. Licensed under a Creative Commons Attribution 4.0 International License (CC BY 4.0).

18電子則は、100年以上にわたり有機金属化学分野における基本原理として利用されてきました。この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)において、この長年の原理に挑戦する新たな有機金属化合物である、鉄有機金属化合物、フェロセンの安定した20電子誘導体の合成に成功しました。この発見は化学の分野において新たな可能性を切り開く可能性があります。

「多くの遷移金属錯体は、18の形式価電子に囲まれているときに最も安定します。これは、触媒や材料科学における多くの重要な発見の基盤となっている経験則です」と、この度、ドイツ、ロシア、日本の共同研究チームと『Nature Communications』に論文を発表したOIST有機金属化学グループの竹林智司博士は述べます。フェロセンはこの規則を体現する古典的な例です。「本研究では初めて、安定した20電子フェロセン誘導体が合成できることを示しました。」 

この画期的な発見は、二つの有機環の間に金属原子が挟まれた特徴的な「サンドイッチ」構造で知られるメタロセンという化合物の構造と安定性に関する理解をさらに深めるものです。 

概念的な理解の再構築 

1951年に初めて合成されたフェロセンは、その予想外の安定性と独特な構造により化学界に革命をもたらしました。発見者は1973年にノーベル化学賞を受賞しています。フェロセンは、金属と有機物の結合に関する理解に新たな扉を開き、現代の金属有機化学という分野を築き上げた点で、非常に画期的な物質です。この分野は、その後も何世代にもわたり多くの科学者にインスピレーションを与え続けています。 

本研究もまたその基盤の上に築かれています。研究チームは、新たな配位子系を設計することで、20の形式価電子を有するフェロセン誘導体を安定化させることに成功しました。これは、これまで不可能と考えられていた配位化学です。「さらに、追加された二つの価電子によって、将来的な応用の可能性を秘めた、従来とは異なる酸化還元特性が誘導されました」と竹林博士は指摘します。これは重要な発見です。なぜなら、フェロセンは既に電子移動反応(酸化還元反応)に利用されていますが、伝統的に酸化状態の狭い範囲に限定されてきたからです。この誘導体において、Fe–N結合(鉄–窒素結合)を形成することで、新たな酸化状態へのアクセスを可能にし、フェロセンが電子を付与したり奪ったりする方法を多様化します。その結果、エネルギー貯蔵から化学製造まで、多様な分野における触媒や機能性材料としての有用性がさらに高まる可能性があります。 

化合物の安定性を破ったり、それを再構築する方法を理解することで、カスタマイズされた特性を持つ分子を設計できるようになります。この知見は、グリーン触媒や次世代材料の開発など、持続可能な化学の進歩を目指す新たな研究に大きな影響を与えることが期待されます。 

将来のイノベーションのためのプラットフォーム 

フェロセン誘導体は、太陽電池や医薬品、医療機器、先端触媒など、さまざまな技術に既に活用されています。今回のブレークスルーは、化学者が利用できる概念的なツールキットを拡大することで、これらの応用分野のさらなる発展と多様化に寄与するとともに、まったく新しい応用領域の創出にもつながる可能性があります。 

OISTの有機金属化学グループは、金属と有機物の相互作用を支配する基本原理の解明と、それを現実の課題に応用する研究に取り組んでいます。また、今回の研究で報告した20電子フェロセン誘導体のように、従来の化学の常識を覆す型破りな化合物に特に関心を寄せています。 

本研究の一部は、日本学術振興会(JSPS)、文部科学省「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の機器分析セクション、エンジニアリングセクション、およびOISTぶりぶし(群星)フェローシップの支援を受けて実施しました。 


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