video: マーカーの位置を調整することで、クライミングや綱渡りを含む複雑な動きの高解像度記録が可能に。 view more
Credit: イグナトフスカ・ヤンコフスカ他(2025年)
マウスモデルは、パーキンソン病をはじめとする神経疾患の治療薬の開発において、重要な役割を担っています。これらの疾患は多くの場合、運動機能に障害をもたらし、震えなどの症状を和らげる治療が求められます。動物実験でこれらの疾患を効果的にモデル化するには、わずかな動きも正確かつ精密に捉えて追跡する必要があります。現在、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、ハリウッドから着想を得て研究を進めています。
OIST神経活動リズムと運動遂行ユニットの研究チームは、学術誌『eNeuro』に掲載された新たな研究で、マウスの動きを極めて高い解像度で測定するモーションキャプチャ技術を紹介しました。研究チームのマーカーを用いたアプローチは、AIや機械学習を用いた大規模なデータ処理を不要とし、走ったり登ったりといった複雑な運動の高品質なデータを得ることができます。
「マーカーを用いたモーションキャプチャは、ビデオゲームや大作映画など、エンターテインメント業界のさまざまな場面で広く活用されています。3次元で高精度な追跡を可能にするこの技術は、神経科学の分野に革新をもたらす可能性があります」と、本研究の筆頭著者であるボグナ・イグナトフスカ・ヤンコフスカ博士は述べています。「しかし、この分野では長年こうした手法に注目が集まっていたにもかかわらず、高品質なデータの取得には至っていませんでした。大きな動物ではモーションキャプチャが容易であるのに対し、マウスでは多くの課題があったためです。マウスの体のサイズや、周囲の物を食べる習性、さらに体に何かが付着すると行動が変容する点が、モーションキャプチャの実施を難しくしてきました。私たちの新しい方法では、これらの課題はうまく克服されています。」
壁のない実験
研究チームは、「平らな床面」「トレッドミル」「クライミングホイール」という3種類のオープンスペースの周囲にカメラを設置し、それぞれの空間を撮影エリアとしました。これらのカメラは、マウスの体に慎重に配置された、ステンレス鋼と反射コーティングされたボールでできたマーカーの反射を検出します。これにより、全身の動きを捉えることが可能になりました。実験セットアップから壁をなくすことで、カメラが邪魔をされずに反射を捉えられるようにしました。そのため、マウスをマーカーに慣れさせ、マウスがカメラから離れないようにする必要があります。
「この実験セットアップを確実に機能させるため、マウスの取り扱いには細心の注意を払いました。報酬や罰を与えるようなシステムは一切使用せず、マウスを自由に動き回らせました。これは、マウスの自然な動きや行動を記録するだけでなく、マウスにストレスを与えないという点でも有効でした」と、同ユニットを率いるヨエ・ウーシサーリ准教授は付け加えます。
3Dモーションキャプチャ技術により、小さな震えから大きな動きまでを記録することができました。マウスが走り、登り、探索する間、研究チームは四肢の速度や歩幅を測定し、自然なマウスの動きを詳細な画像にしました。この手法は、わずかな変化にも高い感度で反応し、肉眼では捉えきれない微細な運動の変化も検出可能です。
研究チームは、マーカーを用いたモーションキャプチャで得られたデータを活用し、マウスの行動をより深く理解することを目指しています。ウーシサーリ准教授は、「私たちが作成したデータは、他の手法に比べてノイズや誤差が格段に少なくなっています。こうした高品質なデータと数学的・計算モデルを活用することで、マウスが特定の動きをする理由や、その神経科学的・生理学的な基盤を詳しく探ることが可能になります」と話します。
動作に関わる脳のメカニズム
トレッドミルで走るような自動的な行動と、空間内を自由に動き回るような探索的な行動では、それぞれ異なる脳メカニズムが関わっています。研究チームはまた、さまざまな課題に取り組むマウスの詳細な3次元データを取得することで、脳の特定の領域が薬物や疾患によってどのように影響を受けるかをより正確にモデル化できると期待しています。
イグナトフスカ・ヤンコフスカ博士は、次のように話しています。「私たちの研究室では、モーションキャプチャから脳イメージングまで、多様な神経科学手法を開発しています。これらの技術を組み合わせることで、多様なデータの収集・分析が可能になります。これはマウスに対する理解を飛躍的に深め、医薬品開発における動物実験の標準モデルを改善する可能性を秘めています。」
Journal
eNeuro
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Animals
Article Title
Accurate tracking of locomotory kinematics in mice moving freely in three-dimensional environments
Article Publication Date
30-May-2025
COI Statement
The authors declare no competing financial interests.