image: 図:実験イメージ(左).歩行時の平均快適度(右).エラーバーは標準誤差を示す. view more
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<概要>
豊橋技術科学大学情報・知能工学系視覚認知情報学研究室と認知神経工学研究室の研究チームは、ヒトと自律移動型ロボットが正面からすれ違う場面において、ヒトが左右どちらに避ける傾向があるのかを調査しました。その結果、ヒトの回避方向が左右どちらかに偏る、といった特定の傾向は見られず、その回避方向には個人差があることがわかりました。そして、ヒト歩行中の腰の左右への角度に着目することで左右どちらに避けるかを予測しやすいことを発見しました。さらに、その腰の向きを検出して避ける機能をロボットに搭載し、ロボットの回避タイミングがすれ違い時の快適度に影響を与えるのかを調査しました。その結果、予測した移動方向に応じて、ロボットが早めに回避行動を取ることで、歩行者の感じる快適さが向上することが示されました。この研究の結果は、2025年5月14日付でPLoS One誌上にオンライン版が発表されました。https://doi.org/10.1371/journal.pone.0323632
<詳細>
自律移動型ロボットは、近年、都市部での物流、飲食物の配達、観光案内など、さまざまな場面で活用が進んでいます。こうしたロボットが今後さらに私たちの身近な存在になるためには、「ヒトにより受け入れやすい動き方」が求められます。本研究チームは、ヒトが持つ認知の特性や行動の傾向をロボットの動きに取り入れることで、より快適な共存が可能になると考えています。
右側通行文化の国で行われた過去の研究では、VR環境で正面からヒトが近づいてくる場合、ヒトは相手を右側に避ける傾向が見られました。一方で、ヒト以外の物体(例:円柱)が近づいてくる場合に対しては、左右どちらに避けるかに明確な偏りは見られませんでした。このように、対象が「ヒト」であるかどうかによって回避行動が変化するかどうかは検証されてきましたが、より具体的に「ロボット」が正面から近づいてきた場合にヒトがどのように反応するかは、これまで十分に解明されていませんでした。
そこで本研究では、正面から近づいてくる実物のロボットに対して、ヒトが左右のどちらに避ける傾向があるのかを調べました。実験では、ロボットが5メートル離れた場所から、5つの異なる角度のいずれかでヒトに近づき、参加者はそれに対して左右どちらかに避けてゴールまで歩くという課題を行いました。実験参加者は全員右利きで、日本の左側通行文化圏の人たちでした。
その結果、ロボットに対する回避行動には左右どちらかへの偏りは見られず個人差が大きいことがわかりました。また、回避動作の直前に、参加者の「腰の向き」が避けたい方向に向いていることも確認されました。
この発見をもとに、私たちは「腰の向き」から回避方向を予測するアルゴリズムを開発しました。さらに、その予測機能をロボットに搭載し、ヒトとすれ違う際の「回避タイミング」が歩行者の快適さにどう影響するかを調べました。ロボットが異なるタイミングで回避する条件や全く回避を行わない条件などを加えた計6パターンを比較する実験を行ったところ、ロボットが早めに回避動作を始める方が、歩行者にとって快適であることがわかりました。
本研究の共同第一著者である博士後期課程1年の山内達登さんは「今回の研究から、ヒトとロボットがより自然にすれ違うための動作設計に向けた有用な知見が得られましたが、さらなる発展にはいくつかの課題も残されています。特に、今回用いた腰の向きから回避方向を予測する技術については、より高い精度と信頼性を確保する必要があります」と説明します。
<今後の展望>
今後は、上述の回避精度向上を図るとともに、実験をさまざまな環境下で行い、どのような要因がヒトの快適さや安心に影響するのかを幅広く検証していく予定です。これにより、ヒトとロボットがより快適に共存できる都市空間の実現を目指します。
Journal
PLOS One
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Waist rotation angle as indicator of probable human collision-avoidance direction for autonomous mobile robots
Article Publication Date
14-May-2025