News Release

イカの皮膚が解き明かす成長の物理学 - 分野を超えた新発見

イカの皮膚細胞の並び方を通じて、成長が物理的特性にどのように影響するかを解明。さらに、さまざまな成長システムに応用できる新しいモデルも開発しました。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

アオリイカの色素胞のパターン

image: 左の写真は生後6週間のイカで、右の写真はその色素胞のパターンを拡大したもの。色素胞を強調するために緑色の点線で色素胞を囲んだ。色素胞のパターンは、大きくて古い色素胞が、小さくて若い色素胞に囲まれている。 view more 

Credit: ロス他(2025年)

物理学は、潮の満ち引きに対する重力の影響を理解したり、顕微鏡のような高度な物理装置を用いて細胞の内部構造を探ったりするなど、自然界のさまざまな現象を解明するのに役立ってきました。ところが近年では、物理学に新たな洞察をもたらすために、生物学的なシステムに注目する研究が増えています。今回、研究者らはイカの皮膚を研究することで、「超乱雑性(hyperdisorder)」と呼ばれる物理現象が生物において初めて確認されることを明らかにし生物の成長が物理現象にどのような影響を及ぼすのかについて新たな理解が得られました。 

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の学際的研究チームが、イカの皮膚細胞の成長がパターン形成に与える影響を明らかにし、その研究成果が『PRX』誌に掲載されました。実験的なイメージング手法と理論的モデリングを組み合わせることで、これらの細胞の独特な配置について新たな知見を得るとともに、さまざまな成長システムに応用可能な超乱雑性の汎用モデルを構築しました。 

配置の分析:均一性と乱雑性 

「超乱雑性」とは、ある特定の空間内の計測される点の数のばらつきが、その空間の体積の増加に対して、それよりも速く増大する現象です。つまり、非常に小さな範囲で見るとシステムは整然としているように見えますがより広い範囲で観察するとそのばらつきが顕著に増幅されるのです。 

「鶏の目の細胞のような他の成長システムでは、これまでの研究において『超均一性(hyperuniformity)』が確認されています。これは、近距離ではランダムに見えるものの、遠距離にわたって秩序やパターンが維持される現象です」と、本研究の筆頭著者であり、OIST学際的ポストドクトラルフェローのロバート・ロス博士は述べています。「私たちはイカでも同様の現象が見られると予想していましたが、実際に観察されたのはまったく異なる現象でした。このような細胞の配置パターンが生物の中で確認されたのは初めてです。とはいえ、同様の成長システムにはこの種の乱雑性が存在する可能性が高く、成長という要素が物理的特性に与える影響の重要性を浮き彫りにしています。」

乱雑さの理解

本研究では、研究チームが12週間にわたってイカを観察し、実験装置を用いて3D画像を撮影することで、皮膚表面に現れる「色素胞」と呼ばれる特殊な細胞の出現を調べました。「色素胞は互いに決まった位置関係で特定のパターンを形成します」と、本研究の共著者で、OIST計算行動神経科学ユニットを率いるサムエル・ライター准教授は説明します。「色素胞は、カモフラージュやコミュニケーションに欠かせません。そのため、私たちはこれらの細胞の空間的な配置とパターンの発達過程を研究することに興味を持ちました。」

観察された超乱雑性をもたらす物理現象を理解するために、研究チームはイカの皮膚の挙動を表すモデルとして、成長する表面上のハードディスク(硬い円盤)を用いた数学モデルを開発しました。一見複雑に思える問題にもかかわらず、非常にシンプルで広く応用可能なモデルを考案することに成功しました。

本研究の共著者で、OIST生物複雑性ユニットを率いるシモーネ・ピゴロッティ教授は、次のように述べています。「この研究は、成長という要素がさまざまなシステムの物理的挙動に与える重要な影響を示すとともに、学際的な視点から研究することで初めて得られる独自の知見を明らかにしています。今後、私たちは、このモデルを生物学的なシステムに限らず、より広範な成長システムに適用していくことを楽しみにしています。このモデルは汎用性が高く、探求すべき科学的な方向性は無限に広がっています。」


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