image: The study found that SerpinA1 helps activate mitochondria in both white and brown fat cells, promoting the "browning" of fat tissue, which boosts energy burning and reduces fat accumulation.
Credit: Masaji Sakaguchi, Kumamoto University
[背景]
現代社会では、食料の充足と生活習慣の乱れ、運動不足が肥満傾向に拍車をかけています。その結果、世界の糖尿病患者は 5 億人を超えると推計され、今後もますますの増加傾向にあります。したがって、肥満の予防と治療は保健医療の重要な課題となっています。肥満の原因とされる脂肪組織は、本来脂質を蓄えてエネルギーを貯蔵する白色脂肪と、エネルギーを消費して体温を維持する働きをする褐色脂肪に大別されます。肥満はエネルギー摂取過剰やエネルギー消費の低下により、白色脂肪への中性脂肪の過剰蓄積を引き起こし、2 型糖尿病などの代謝異常の主要な原因となります。これに対し、近年、ヒト成人においても褐色脂肪組織の存在が、肥満やインスリン抵抗性の抑制に寄与することが示唆されており、生活習慣病に対して予防的効果を持つと注目されています。
[研究の内容] [成果]
今回の研究成果は、本研究グループが2017年に発表した、成熟マウスにおいて脂肪組織特異的にインスリン受容体とIGF1受容体を同時に欠損誘導させたマウスモデルに基づく、褐色脂肪組織の回復メカニズムの発見に続くものです。この欠損誘導したマウスは、初期段階で脂肪組織の消失とメタボリックシンドロームが発症する一方、長期観察では褐色脂肪組織の回復と代謝の改善が確認されます。これを背景に、褐色脂肪細胞の活性化メカニズムの解明に取り組みました。
本研究では、褐色脂肪回復期の血清を用いた網羅的なプロテオミクス解析により、褐色脂肪細胞の活性化を促す因子としてSerpinA1を同定しました。 SerpinA1は肝臓で産生されるホルモン「ヘパトカイン」であり、血清中の増加が褐色脂肪組織の再生に寄与することが明らかになりました。SerpinA1タンパクを用いた実験では、マウスおよびヒトの褐色脂肪細胞でUCP1発現が増加し、ミトコンドリア機能の活性化を促し、SerpinA1が褐色脂肪の増殖と機能亢進を促すことが示されました。さらに、肝臓特異的にSerpinA1を過剰発現するトランスジェニックマウスを作製し、これにより耐糖能の改善、UCP1発現の増加、寒冷刺激下での熱産生の向上が観察されました。また、SerpinA1は白色脂肪におけるベージュ化を促進することも示されました。
この効果を検証するために、SerpinA1ノックアウトマウスを作製したところ、耐糖能の悪化、インスリン抵抗性の増加、酸素摂取量の低下、および耐寒能の低下が認められました。褐色脂肪組織でのUCP1発現の低下や、高脂肪食摂取下での肥満傾向も確認されました。
また、SerpinA1の褐色脂肪細胞への作用機序を解明するため、SerpinA1を用いた結合タンパクのプロテオミクス解析を実施し、SerpinA1と相互作用をする細胞表面分子EphB2を同定しました。SerpinA1はEphB2を介してβ アドレナリン受容体非依存的な経路でシグナル伝達を促進し、UCP1の発現調節およびミトコンドリアの活性化を引き起こすことが示唆されました。この発見は、脂肪組織と肝臓の新たな相互作用メカニズムを示し、肥満や糖尿病の治療における新たな戦略の基盤を提供します。
[展開]
今後、この研究成果を基に、脂肪組織の機能を活用した新たな肥満および糖尿病治療法の開発が期待されます。
Journal
Nature Communications
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Animals
Article Title
Hepatic SerpinA1 Improves Energy and Glucose Metabolism through Regulation of Preadipocyte Proliferation and UCP1 Expression
Article Publication Date
12-Nov-2024
COI Statement
The authors declare no conflicts of interest