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実用化レベルの室温イオン伝導性を示す硫化物系固体電解質を液相合成し、 電気化学特性を詳細に解析

~硫化物系全固体リチウムイオン電池の実現へ~

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

溶液合成したLi10GeP2S12特有の電気化学特性

image: 溶液合成とボールミル合成したLi10GeP2S12の比較 view more 

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<概要>

豊橋技術科学大学 電気・電子情報工学専攻の博士前期課程 岸 遼太 氏、引間 和浩 助教、松田 厚範 教授、総合教育院の武藤 浩行 教授、大阪公立大学 物質化学生物系専攻の塚崎 裕文 特任准教授(当時)、森 茂生 教授らの研究グループは、溶液法における熱処理過程を改善することで、実用化レベルの室温イオン伝導性を示す硫化物系固体電解質Li10GeP2S12を合成することに成功しました。また、溶液合成したLi10GeP2S12は、ボールミル合成した試料と比較し、①粒径が小さく粒界抵抗が大きいこと、②粒子表面の有機溶媒に起因する表面層が存在し、Li-In負極に対する安定性が高い、という溶液合成特有の電気化学特性を明らかにしました。本研究成果は、ACS Applied Energy Materialsに2024年9月25日付けでオンライン公開されました。

 

<詳細>

難燃性の無機固体電解質を用いた全固体電池は、高い安全性や高出力特性などの特徴を持つため、電気自動車(EV)用次世代電池として期待されています。全固体電池のEVへの適用に向けて、優れたイオン伝導性と可塑性を示す硫化物系固体電解質の研究開発が活発に進められています。しかし、硫化物系固体電解質は大気中で不安定であり、合成は大気非暴露下で行う必要があるため、低コストかつ量産に適する液相合成手法の確立が求められています。

当研究グループでは、液相合成プロセスに関する研究を精力的に行ってきました。これまでに、アセトニトリルとテトラヒドロフラン、微量のエタノールの混合溶媒に、硫化物系固体電解質Li10GeP2S12の出発原料であるLi2S、P2S5、GeS2とともに硫黄(S)を過剰に添加することで、3日程度必要だった総合成時間を最短7.5時間まで短縮でき、比較的高いイオン伝導性(室温導電率1.6 mS/cm)を示すことを2023年5月に発表しました(https://doi.org/10.1039/D3CC01018J)。しかし、ボールミル合成試料と比較して、溶液合成で得られたLi10GeP2S12のイオン伝導性が低いことが課題でした。

本研究では、まず、溶液合成品で高いイオン伝導性が得られる合成条件を探索しました。従来の熱処理過程では、最後の熱処理の過程で石英ボート(SiO2)を用いていましたが、熱処理後にSiS2などの不純物が生成することが課題でした。そこで、燃焼ボートの材料種を検討しました。その結果、Tiボートを用いて熱処理することで、室温導電率5.5 mS/cmを達成しました。しかし、同じ条件でのボールミル合成品では7.9 mS/cmを示しており、溶液合成品はイオン伝導性が低く、その原因が明らかになっていませんでした。そこで、ボールミル合成と溶液合成したLi10GeP2S12の電気化学特性(1: イオン伝導性, 2: Li-In負極安定性)を比較して、溶液合成品の電気化学特性の特徴とその因子を解析しました。

  1. イオン伝導性:溶液合成品では、ボールミル合成品と比べて粒径が小さいことが分かりました。また、バルク抵抗と粒界抵抗を分離してイオン伝導性を解析したところ、溶液合成品では、ボールミル合成品と比べて粒界抵抗の増加が顕著であることを見出しました。以上により、全抵抗から算出したイオン伝導性が低下したと考えられます。
  2. Li-In負極安定性:Li-In/Li10GeP2S12/Li-In対称セルの電圧変化を評価することで、Li-In/Li10GeP2S12界面の安定性を調べました。イオン伝導性が低いにもかかわらず溶液合成品の方が過電圧が低く、溶液合成品の方がLi-In/ Li10GeP2S12界面の安定性が高いことが分かりました。また、X線光電子分光法により、有機溶媒に由来する粒子表面層の存在が示唆され、この表面層がLi-InとLi10GeP2S12間の界面安定性に寄与するのではないかと考えています。

 

<今後の展望>

 本研究により、実用化レベルの室温イオン伝導性を示す硫化物系固体電解質の液相合成法が明らかになったとともに、液相法特有の電気化学特性とそのメカニズムが明らかになりました。また、これまであまり注目されてこなかった粒子表面状態の重要性を示唆する結果が得られています。本研究では、高イオン伝導性を示す硫化物固体電解質としてLi10GeP2S12に注目しましたが、Li10GeP2S12以外のより高いイオン伝導性や負極安定性を持つ硫化物系固体電解質の合成と粒子表面状態の解析へと展開し、飛躍的な性能向上に繋げていきたいと考えています。

 

<論文情報>

Kazuhiro Hikima, Ryota Kishi, Hirofumi Tsukasaki, Shigeo Mori, Hiroyuki Muto and Atsunori Matsuda, Electrochemical properties of Li10GeP2S12 solid electrolytes synthesized using a solution-based method, ACS Applied Energy Materials, 7, 19, 8788–8796 (2024).

本研究は、JSPS科研費(JP 21K14716, JP 22H04614)、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のSOLiD-EV (JPNP 18003)、SOLiD-NEXT (JPNP23005)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)のGteXプログラム(JPMJGX23S5)の助成により実施されました。


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