News Release

顔らしさが無意識下処理に影響する

~曖昧性と顔の知覚~

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

研究で用いた視覚刺激の例

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<概要>

我々の脳には、限られた視覚情報でも顔を素早く識別できる認知メカニズムがあります。豊橋技術科学大学では、この現象に注目し、無意識下での顔らしい曖昧な視覚刺激に対する脳の処理を調査しました。情報・知能工学系の視覚認知情報学研究室及び認知神経工学研究室の研究チームは、片目に高速で画像を提示して他方の目の視覚情報を抑制する「連続フラッシュ抑制(CFS)」という手法を用いて、無意識下での曖昧な画像に対する処理メカニズムを調べました。研究の結果、曖昧な白黒刺激であっても、顔らしい場合はより早く意識に上ることが判明しました。この結果は、顔に関する手がかりが最小限でも脳が迅速に反応することを示唆しています。なお、この研究成果は2024年9月27日付でJournal of Vision誌にオンライン掲載されました。https://doi.org/10.1167/jov.24.9.18

<詳細>

CFSとは、一方の目にモザイクのようなランダムな画像が高速で次々と呈示されている間、もう一方の目にターゲット刺激を提示することで、視覚刺激が意識に上ることを抑制する方法です。CFSにおいて抑制突破時間(Breaking time: BT)は無意識下処理を調べる上で重要な指標であり、BTとは、抑制された刺激が抑制を突破し、参加者に意識的に認識されるまでの時間を示す指標を指します。実験で使用された4種類の刺激の中で、正立したグレースケールの顔が逆さの顔よりも速く認識されることが確認されました。これは倒立効果として知られており、顔認識の分野でよく知られた現象です。しかし、白黒で提示された二値化顔刺激の場合、倒立効果は見られませんでした。つまり、これらの二値化画像が正立しているか逆さであるかに関係なく、脳はグレースケールの顔に対して見られるような認識バイアスを示さなかったことを意味しています。では,二値化画像はグレースケールの刺激と比較し,何の優位性も示さないのでしょうか。

興味深いことに、二値化画像の中には顔らしさが高いものとそうでないものが混ざっており、BTと顔らしさとの関係を調査したところ、強い相関が確認できました。つまり、顔に近い特徴を持つ画像は、そうでない画像よりも速く検出されたことを意味します。これは、目や口の輪郭など顔の特徴を含む曖昧な刺激であっても、脳が他の刺激タイプより優先的に処理していることを示唆しています。脳は顔に似た特徴に対して非常に高い感度を示しており、視覚認知における顔の手がかりの独自性を強調する結果となりました。

本研究の第一著者である博士後期課程3年のマーティンセンマイケル誠氏は、本研究の意義について次のように述べています。「困難な視覚条件下においても、脳が顔に対して非常に高い感度を持っていることを強調しています。これは、顔認識が他者を認識し、相互作用する上で極めて重要な特化したシステムであることを示唆しています。」さらに、この結果が、感情や注意などの要因が顔認識に与える影響を探る新たな研究の可能性を開くと提案しています。

<展望>

今後、研究チームは恐怖や喜びといった感情表現が、顔らしさと同様に無意識下処理にどのような影響を与えるかを探る予定です。加えて、眼球計測などの技術を取り入れることで、無意識下での処理中に参加者がどの顔の特徴に注目しているかを特定し、異なる顔の部位に対する注意についてさらなる洞察を得たいと考えています。

 

<謝辞>

本研究は、JSPS科研費(JP22K17987, JP24H01551, JP23KK0183, JP20H05956)、およびJSPS特別研究員奨励費(JP24KJ1313)、若手PI(JPMJFS2121) の助成を受けたものです。

論文情報

*Martinsen, M. M., Yoshino, K., Kinzuka, Y., Sato, F., Tamura, H., Minami, T., & Nakauchi, S. (2024). Facial ambiguity and perception: How face-likeness affects breaking time in continuous flash suppression. Journal of Vision24(9), 18-18. https://doi.org/10.1167/jov.24.9.18. *Corresponding author.


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