News Release

遺伝情報の伝達役のRNA分子を認識する新たな機構を発見

tRNAの前駆体が成熟する前に核外輸送因子により運び出されていた ~高等動物の生命を維持する機構の進化の理解に貢献~

Peer-Reviewed Publication

Nara Institute of Science and Technology

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The fruit fly lacks the tRNA nuclear export receptor Exportin-t, which only exports end-processed tRNAs to the cytoplasm to ensure the completion of the processing steps in the nucleus. The related protein Exportin-5 is known to be responsible for tRNA nuclear export in the fly, but whether it is selective for end-processed tRNAs remained unknown. Researchers unexpectedly found that fly Exportin-5 preferentially binds tRNA precursors before end-processing, and end-processing occurs in the cytoplasm after nuclear export of tRNA precursors, unlike the yeast tRNA processing mechanism.

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Credit: Katsutomo Okamura

【概要】

奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕)先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域RNA分子医科学研究室の博士後期課程Li Zeと岡村勝友教授らは、ショウジョウバエの細胞の核内のRNAが輸送タンパク質により核外に運び出されるときに、酵母などの研究で知られているRNA分子として成熟したパターンでなく、未成熟のRNA前駆体を認識するという新しい性質を発見しました。この成果から、多様なRNAが種々の核外輸送機構によってどのように認識されているのか、また進化の過程でそれぞれの核外輸送機構の役割がどう変化するのかという課題の一端が明らかになりました。特に、タンパク質の合成に欠かせない役割を果たし、あらゆる生命に必須の因子であるtRNA(転移RNA)においても、その成熟化と核外輸送の順序が酵母などとは異なることが示唆され、生物間で違いがあることを示唆する結果となりました。

本研究成果は、Journal of Biological Chemistry誌に2024年8月2日に公開されました。

【背景と目的】

細胞の中で産生されるRNA分子のほとんどは核の中で作られ、その後切断や化学修飾などを受けて核外へと輸送されています。核外輸送は自動的には起こらず、特定の種類のRNA分子を認識する核外輸送因子が、核内で起こるべき成熟化過程を終えたRNA分子のみを核外に輸送する仕組みになっています。
例えば、タンパク質の合成に必須の役割を果たしあらゆる生命に必須の因子であるtRNAに注目すると、酵母ではtRNAの前駆体が生成された後、核外輸送因子であるExportin-tが両端の切り取られる修飾を受けたtRNA分子のみを選別することによって、tRNA生合成と核外輸送が正確に起こる仕組みが備わっています。しかし、tRNAは全ての生物が持っているのに対し、Exportin-t遺伝子はショウジョウバエでは失われていました。このため、Exportin-tの代わりにExportin-5がtRNA核外輸送の役割を担うことが示されていますが、Exportin-5はtRNA輸送に特化した因子ではなく、両端の切断状態を区別できるか明らかになっていませんでした。

【研究の内容】

本研究では、ショウジョウバエにおいてExportin-5に結合するRNA分子を網羅的に同定しました。その結果、これまで知られていたExportin-5の標的を全て検出することができ、tRNAも検出されました。詳細な解析の結果、Exportin-5は酵母のExportin-tとは異なり、両端の切断が起こる前のtRNA前駆体に結合していることが明らかになりました。これまでtRNA前駆体の両端の切断が核内で起こると考えられてきましたが、Exportin-5が両端の切断前にtRNA前駆体に結合していたことから、tRNA前駆体の両端の切断が核外の細胞質で起こると仮説をたてて検証しました。その結果、意外なことにtRNA前駆体の両端の切断が細胞質で起こることを示す結果が得られ、tRNA生合成が酵母と高等動物で大きく異なるのではないかと考えました。また本研究の解析では、これまで知られていなかったExportin-5とmRNAとの結合も示され、Exportin-5がこれまで考えられてきたよりも多くのRNA分子種の核外輸送に関わる可能性を示唆するものでした。

【今後の展開】

複数の核外輸送因子がそれぞれ固有のRNA分子の認識を行い、一部は複数の核外輸送因子によって認識されていることは以前より示されていました。今回、生物種によりtRNA前駆体の切断と輸送の順序が異なり得ることが示されたことは、生命に必須の非常に普遍的な分子機構も進化の過程で大きく変化し得ることを示しました。

一方で、Exportin-5がこれまで考えられていたよりも多種類のRNA分子と結合することがわかったことから、Exportin-5が持つ生理学的作用についてより深く調査する必要があります。これまでヒト肝癌や消化器癌で見られるExportin-5異常は、その主要な基質と考えられていたマイクロRNAの核外輸送異常と関連づけて研究されてきましたが、ショウジョウバエで見られたように多くのtRNA前駆体やmRNAとの結合がヒト細胞でも見られるのであれば、より広範な影響を考えた研究が必要となります。

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【掲載論文】

タイトル: Exportin-5 binding precedes 5- and 3-end processing of tRNA precursors in Drosophila

著者: Ze Li, Junko Iida, Masami Shiimori, Katsutomo Okamura

掲載誌: Journal of Biological Chemistry

DOI: 10.1016/j.jbc.2024.107632

【研究室ホームページ】

https://bsw3.naist.jp/courses/courses216.html

【用語解説】

tRNA (転移RNA): 全ての生物が持つ必須のRNA分子群で、タンパク質合成に必要なアミノ酸を適切に蛋白質合成装置リボソームに運ぶ役割を持つ。

 


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