東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 疾患生理機能解析学分野の柿沼 晴 教授、肝臓病態制御学講座の朝比奈 靖浩 教授、同・消化器病態学分野の三好 正人 助教、渡壁 慶也 大学院生、岡本 隆一 教授らの研究グループは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)との共同研究で、星細胞において炎症に寄与する分子DCLK1を同定し、この分子を抑制することが肝星細胞からでる炎症性因子を抑制することを発見しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに日本医療研究開発機構肝炎等克服緊急対策研究事業の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌The FASEB Journalに、2024年7月5日にオンライン版で発表されました。
【研究の背景】
慢性肝炎は、肝硬変、肝細胞癌、末期肝不全などの致死的な病態を続発することから、世界中で公衆衛生上の問題として考えられています。慢性肝炎は、炎症と線維化を認め、最終的には肝硬変を引き起こすことが知られています。進行した肝硬変には、現在、肝移植以外に根治的な治療法はありません。
肝臓を構成する細胞の一つである肝星細胞は、炎症下で性質を変えて活性化し、線維化を引き起こし、肝硬変に深く関与することが知られています。そこで研究グループはこの肝星細胞※1および様々な炎症における重要な調節因子と考えられているA20(別名:TNFAIP3)に注目しました。肝星細胞におけるA20の機能を研究することで慢性肝炎、肝硬変に対する治療法の発見に繋がるのではないかと考えました。
【研究成果の概要】
研究グループは、マウスとヒトの肝星細胞を用いて、A20の機能を解析しました。マウスの肝星細胞でA20を欠損させると、肝臓において炎症と軽度の線維化、すなわち慢性肝炎が生じました。この結果は肝星細胞におけるA20が慢性肝炎を抑制していることを示しています。肝星細胞におけるA20の機能抑制は、炎症の進行に関与する数種類のケモカインの異常な増加を引き起こしました。
さらに、A20欠損肝星細胞の詳細な解析を行って、肝星細胞からのケモカイン増加を引き起こす分子としてDCLK1が重要であることを発見しました。さらに、DCLK1を阻害することによって、炎症性星細胞におけるケモカイン誘導を抑制しました。これらの結果は、DCLK1を標的とした治療薬が、慢性肝炎で炎症性星細胞が肝硬変に向かって病気を進めてしまうことを阻止できる可能性を示しています。
【研究成果の意義】
肝星細胞において炎症性星細胞へ変化することをA20が抑制すること、そして、DCLK1を阻害することで炎症性星細胞におけるケモカイン誘導を抑制することを発見しました。
慢性肝炎の新しい治療標的として、肝星細胞の意義を示すことができ、本研究で発見したDCLK1を介したケモカイン誘導を阻害することで、肝硬変になる前段階、慢性肝炎の時期から早期に治療介入を行うことで肝内の炎症を抑制し、肝硬変への進展を抑制できることが期待されます。
現在は治療薬が乏しいタイプの慢性肝炎が肝硬変へ伸展してしまうことを阻止する治療標的としてA20、DCLK1があることがわかり、ともに治療薬の開発が期待されます。
【用語解説】
※1肝星細胞・・・・・肝臓の中の細胞の一種で、正常な肝臓ではビタミンAを貯蔵している。慢性肝炎などの炎症がおきると、活性化してその性質を変え、肝臓の線維化(肝臓が硬くなること)を進めてしまう。線維化が進行すると肝硬変に至る。
Journal
The FASEB Journal
Article Title
A20 in hepatic stellate cells suppresses chronic hepatitis by inhibiting DCLK1–JNK pathway-dependent chemokines